台風下の「舞台千と千尋の神隠し」2023御園座 感想

見てきましたよー!再演「舞台千と千尋の神隠し」。
 今になって、大変な状況下のなか観劇できたことがどれほど綱渡りだったか、しみじみかみしめています。
 そう、観劇日は、近畿~東海を台風7号が直撃、東海道新幹線が丸2日機能しなかった、2023年8月15日のことでした・・・

観劇できる幸せ

 全日完売のチケットですが、なにしろこの台風。それでも1階客席は目視で8割がた埋まっていました。
 前日時点で御園座のホームページには、「今のところ開演予定」ではあるが、場合によっては中止になること。交通機関運休などで観劇できない人にはチケット代払戻す旨の告知が出ていたので、観劇を取りやめた方ももちろんたくさんいたことでしょう。それもまた、英断だったと思います。ソワレ開演前の名古屋は、雨はたいしたことないものの、時折吹く突風が恐ろしかったですから。

 釜爺役の田口トモロヲさんによる注意事項アナウンスが始まり、開演してくれるんだ・・・!と安堵。やけに歯切れのよい口調のおかしみで、現実世界と千と千尋の世界が鮮やかにつながります。あとは夢中。アニメ映画の原作を忠実に再現しつつ、舞台ならではのライブ感。いやあ、楽しい舞台でした!


 以下、ネタバレを若干含みつつ感想を。

千尋・上白石萌音

 泣かされましたよ、千尋がおにぎりほおばりながら泣くシーン。そうだよね、不安だよね、お父さんとお母さんが心配でたまらないよね・・・。小さな子がこんなとこに連れてこられて、こわいよね・・・と胸がつぶれそう。
 上白石萌音さんが、小さな女の子にしか見えず(千尋って設定何歳だっけ?私には小学高学年くらいに見えた)、はじめはひたすら庇護欲をかきたてられます。
 物語が進むにつれて成長してゆく様に、胸が熱くなりました。

お母さん/リン・華優希

 なにしろファンなので、華ちゃんが舞台の端っこにいるときも、後ろ姿も、常にオペラで追っています。たぶんどんな演技をされても満足感を得られるのですが、なるべく客観的に、冷静に感想を述べることを試みます。

 まずはお母さん。しょっぱなから登場です。
 いや、怖っ。セリフ内容はふつうなのに、響きが冷酷。娘に愛情なさそうというか、感情が動かなそうというか。そんなだったのが、食べ物見つけて「千尋も食べなさいよ」と高揚し貪り食う、異様さ・・・。千と千尋って、両親が豚になる瞬間から世界がひっくり返るじゃないですか。急転直下な重要シーン、気味悪さにゾクゾクさせられました。
 お父さんは多分お調子者の陽気な人なんでしょうね。調子に乗って肉食べたり、平時でもやりそうな感じ。冷静冷酷なお母さんが我を忘れて暴挙に走るから、このシーン、こんなに異様に感じるんだと思います。

 続いて、リン。
 くぅ、かわいい・・・。姫カットがお似合いです。ぼんやりした千を、姉御としてはつらつと引っ張っていました。少し低音な声が、張り上げる場面でも耳に心地よい。ヤモリもらって喜んだり、ぞうきん持ってガニマタで踊ったり、コミカルな動きは元気いっぱい。油屋で生き抜くたくましさを持った、かっこいいリンでした!
 個人的に好きなシーンは、1幕の終わり。黒い前掛けみたいなシャツ一枚で、2階から海を見下ろし寝そべっておにぎり食べる、けだるげなリンがツボでした。

 2幕の、千が両親豚を当てようとするシーン、上から見守っているリンは影武者さんですよね? 両親のシーンが続くから、影武者さんが立ってるのだなと思ったんだけど、見間違いかな?
 カーテンコールでは華ちゃんはリンスタイルで登場。直前に母ちゃんの出番があるので、かなりの早着替えかと。そして居住まいがもうリンではなく、お母さんでもなく、華ちゃん。品の良いお嬢様に戻っています。

ハク・三浦宏規

「舞台キングダム」で主人公の信を演じた人だったんですね。私が2月に帝国劇場で見たのは、別の人の回だったんですが、信という役は、飛んだり回転したり戦ったり本当にアクロバットが多くて。だから、三浦さんも、相当身体能力の高い方なのだろうと推察します。ハク役ではあんまりそういうシーンはないのですけれども、竜に変身するところ、くるりくるりと旋回しながらはけていく様子に、んっ、これは・・・!となりました。体の重さを感じさせない、人外の雰囲気がよく出ていたと思います。
 2回目のカーテンコールでは、カエル役の人と一緒に、華ちゃんにカエルを背負わせながらエッホエッホ登場。おちゃめな一面を垣間見せてもらいました♡

湯婆婆/銭婆・朴路美

 この方も舞台キングダムファミリーです。もうひとかたの湯婆婆・夏木マリさんの普段からの妖怪味(いい意味)と違い、お美しい女優さんですが、きっと中身はなかなかに破天荒な方ではないかと。アニメ「進撃の巨人」のハンジさん役のイメージが私にあるせいかな?
 舞台での妖怪味は、夏木さんに負けていませんでした。どすの効いた声、怪しい猫なで声を使い分け、たたずまいもアニメの再現率半端ない!(ちなみに、アニメの湯婆婆は夏木さんが声をされています)。
でっかい玉ねぎ頭はかぶってほしかったなあー。
カオナシ役の森山開次さんの怪しい動き、カエル役のおばたのお兄さんらの軽妙な声と演技も見どころでした。

音楽

テーマ曲「いのちの名前」以外は、オリジナル曲だったかと思います。世界観、よく出ていました。生オケ入っています。
 くされ神が浄化されてお祭り騒ぎになる場面の音楽が本当に楽しくて。音楽に合わせてみんなが扇子をもって「ハイッハイッ」と歌い踊ります。あのシーンだけでも生でもう一度見たい!

演出

 複雑怪奇な造りの油屋を、狭い舞台にどう落とし込むのか。アニメならではの魔法の場面をどうするのか。このあたりが舞台演出の肝であったかと思います。
 アンサー。ほとんど人力でした。千尋がエレベーターを乗り継いで湯婆婆の部屋へと走りこむ場面。エレベーターの扉を持った10人くらいの(もっと?)人達がすごいスピードで動き回って、うち2人がドアを重ねたとき、チーン♪とドアが開きます。ドアには、「唯下」とか「天」とかの文字が2枚で完成するようになっていて、だからドアを持っている人たちは動かす順番がとっても大事。それを目まぐるしいスピードで体の位置を変えながらやりきるので、「舞台人って頭良くないとできないな」と感心しました。
 真っ黒くろすけや、ねずみになった坊は、ベージュの服を着た俳優さんがパペットで演技。違和感はありませんでした。ただ、アニメ知ってるから、なにやってるか知ってるけど、まったく初見の人にはわかりにくいだろうな、と思う小ネタはありました。なにしろ小さいからね。
 いずれにしろ、緩急つけた演出はすばらしく、人力であろうとも、ここまで魔法の世界を表現できるんだということに感動しました。

 カーテンコールはスタンディングオベーション!
萌音ちゃんが「大変な思いをしながら劇場に来てくださり、本当にありがとうございました」とご挨拶されました。
 はい、大変な思いをしましたとも。そして、翌日、帰るときもまだ大変でしたとも。だけど、それでも「来てよかった!見に来てよかった!」と思えるほどの舞台に出会わせてくれてありがとうと、キャスト全員、スタッフ全員に感謝を伝えたい。

 初演のブルーレイが発売されているようですね。2023年のバージョンもブルーレイ化しないかしら。買いたいですね。


 


 

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