河が海に流れ込む城下町の、建物にまつわる怪異譚。シリーズが「その参」まで出ていて、一冊につき6編、つまり6棟の建物にまつわる怪異が登場する。
各編の主人公周辺にはリンクがなく、ただ、怪異がどうしようもなくなったとき、どの家にも「営繕屋」と名乗る若い大工・尾端が現れる。穏やかな言葉で、パニックのさなかにいる主人公たちを落ち着かせ、その建物で生活して行けるよう修繕を施すーー。
私が今まで読んだホラー小説で、一番禍々しくて、本を部屋に置いておくのも恐ろしかったのが、同作者の別小説「残穢」。こちらも建物にまつわる怪異を、ルポ形式で書いたものだったのだが、それに比べればまだ明るくて、それぞれのラストにはちゃんと救いのある形式だったので、実生活に支障を来さず読了。・・・とはいえ、夜中にふとシーンを思い出して、ぞっとするくらいの怖さはある。
中でも私が印象に残った作品をメモしておく。
「雨の鈴」(1巻収録)
住宅街に、雨の日だけ鈴の音とともに喪服の女が現れる。どこへ向かっているのかに気が付いたとき・・・。
雨の情景の描写が美しい。石畳に響く潮騒のような雨の音、赤い傘、夾竹桃の白い花。幻想的な景色の中で近づいてくる黒い怪異と、現実的に折り合いをつけなければならない女性主人公の静かな覚悟が胸に残る。
「異形の人」(1巻収録)
田舎町の古家に引っ越すことになって不平たらたらの女子中学生が主人公。これはねえ、トラウマになるわ!真菜香ちゃん、健やかに育て!
「檻の外」(1巻収録)
全編通して、一番こわかった。 離婚して子どもとともに郷里に帰ってきた女性。古い借家で生活の立て直しに必死な中、怪異が始まる。
危害が及ぶ系の怪異は本当に怖い。家族の愛に恵まれない主人公だが、かつての同級生たちが頼もしく支えてくれるのが救い。そして、怪異の理由がせつなかった。
「芙蓉忌」(「その弐」収録)
のぞきがテーマの、ちょっと耽美系。魔に魅入られてしまうお話。
「歪む家」(「その参」収録)
他とは違う、家は家でも「ドールハウス」の話。
「骸の浜」(「その参」収録)
修繕できない古家に、住み続けるしかない女性の話。全編中、最もエンド後に思いを馳せた作品。宿命を持ってしまった家と、どう付き合うのか。海と干潟しか見えない庭、というのは、やはり死後の世界を連想する。宿命ごと家を継ぐ決意をした主人公がさびしい。修繕されて、落ち着いて暮らせるようになればいいなあ。
その他雑記
・事故物件の怪異を扱う小説やテレビ番組に辟易としていた昨今、怪異と折り合いをつける結末には、癒しをもらえた。
・とはいえ、私なら引っ越すだろう。
・尾端が登場すると同時に安堵。頼もしい。
・結局、尾端とは何者なのか。生活感がまったく見えない謎。
・「十二国記」の続きも早く読みたい。